第4章 通信システムの基礎②
無線通信システム ― 電波・アンテナ・送受信機のしくみを学ぼう
📌 この節で学ぶこと
- 電波の性質(波長・伝搬・偏波)と各周波数帯の特徴
- アンテナの種類と特性(実効長・放射抵抗・利得)
- 携帯電話・衛星通信・GPS などの無線通信システム
- AM/FM 送信機・スーパヘテロダイン受信機の構成
- SN比・選択度など受信機の性能指標
この教材の使い方
上のナビゲーションで各節に移動できます。各節には解説 → クイズ → 例題の順に内容が並んでいます。クイズに答えながら読み進めましょう。最後の「テスト対策」では定期考査に向けた問題演習ができます。
電波とアンテナ
1-1 電波とは何か
高周波電流を導体(アンテナ)に流すと,電界と磁界が互いに直角に交わりながら空間に広がります。これを電磁波といいます。
電磁波のうち,周波数 3×10⁶ MHz(3 THz)以下のものを電波と呼びます(電波法で規定)。
波長の公式
光速 c = 3×10⁸ m/s,周波数 f [Hz] とすると波長 λ [m] は:
周波数 f = 594 kHz = 594×10³ Hz
偏波
電界面と大地の関係で電波の向きが決まります。
- 垂直偏波:電界面が大地に対して垂直(多くの携帯・FM放送)
- 水平偏波:電界面が大地に対して水平(テレビジョンなど)
1-2 電波の分類と伝搬
| 分類 | 周波数 | 波長 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 超長波 VLF | 3〜30 kHz | 100〜10 km | 海底探査 |
| 長波 LF | 30〜300 kHz | 10〜1 km | 船舶・航空機用ビーコン,標準電波 |
| 中波 MF | 300〜3000 kHz | 1 km〜100 m | AM ラジオ |
| 短波 HF | 3〜30 MHz | 100〜10 m | 短波放送,国際放送,船舶通信 |
| 超短波 VHF | 30〜300 MHz | 10〜1 m | FM ラジオ,防災行政無線,警察・消防 |
| 極超短波 UHF | 300〜3000 MHz | 1 m〜10 cm | 地デジ,携帯電話,無線 LAN |
| センチメートル波 SHF | 3〜30 GHz | 10〜1 cm | 衛星通信・放送,無線 LAN |
| ミリ波 EHF | 30〜300 GHz | 10〜1 mm | 衛星通信,各種レーダ |
地上数十〜数百 km の大気は太陽エネルギーでイオン化されており(電離層),短波(HF)はこれに反射して遠距離まで届く。中波の夜間受信も電離層の反射による。
電波の電界強度が強くなったり弱くなったりする現象をフェージングという。
1-3 アンテナ
半波長アンテナ(ダイポールアンテナ)
全長が電波の波長 λ の 1/2 のアンテナ。中央から高周波電力を供給する。他のアンテナの特性比較の基準として使われる。
Rr:放射抵抗 [Ω],Im:給電点電流の最大値 [A]。半波長アンテナの放射抵抗は約 73 Ω。
アンテナの長さ(半波長):λ/2 = 25 m
実効長:lₑ = λ/π = 50/π ≒ 15.9 m
アンテナ利得
半波長アンテナを基準(P₀)として,任意のアンテナの入力電力 P との比をデシベルで表したもの。
※ 八木・宇田アンテナは 2〜6 dB 程度。利得 G 倍のアンテナを使うと,同距離での受信電力が G 倍になる。
給電線
アンテナと送受信装置をつなぐ線路。特性インピーダンスがアンテナのインピーダンスと異なると反射が起き,効率が落ちる(インピーダンス整合が必要)。
- 平行二線形給電線:Z₀ = 276 log₁₀(2d/D) [Ω]
- 同軸ケーブル:Z₀ = (138/√εr) log₁₀(D₂/D₁) [Ω],テレビ受信は 75 Ω が標準
- 導波管:マイクロ波(パラボラアンテナなど)に使用,中空金属管
log₁₀(12.5) ≒ 1.097
Z₀ ≒ 276 × 1.097 ≒ 303 Ω
各種の無線通信
2-1 無線局の種類
電波を利用する無線通信設備の全体を無線局という。
| 種類 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 固定局 | 固定した地点で業務を行う | 基地局,放送局の送信所 |
| 移動局 | 移動中または停止中に業務を行う | 携帯電話機,船舶局,航空機局 |
| 放送局 | 一般公衆を対象にした放送 | ラジオ・テレビ放送局 |
| 宇宙局 | 大気圏外の人工衛星に設置 | 通信衛星,放送衛星 |
| 地球局 | 宇宙局と通信するために地上に設置 | 衛星放送の送信局 |
2-2 移動通信(携帯電話)
携帯電話は移動局の一種。使用周波数は 2 GHz帯・3.5 GHz帯・28 GHz帯など。
多元接続(OFDMA)
一つの基地局が多数の端末と同時に通信するため,周波数と時間を分割して割り当てる技術。
・周波数軸:複数の搬送波(サブキャリア)に分割し,互いに干渉しないよう直交配置
・時間軸:1 ms ごとに区切ったスロットを端末に割り当て
・12 本の搬送波を 1 ブロックとして管理(LTE/5G の基本)
2-3 マイクロ波通信
一般に 3 GHz 以上の短波長電波。光に似た伝搬特性(直進性が強い)。伝送帯域が広く多重化に適する。
- マグネトロン:強磁界中の電子運動を利用して大電力のマイクロ波を発生
- 進行波管(TWT):電子ビームのエネルギーでマイクロ波を増幅
- 導波管:中空の金属管。マイクロ波を伝送する給電線
2-4 衛星通信・衛星放送・GPS
静止衛星
赤道上空 約 36000 km の円軌道を地球の自転と同じ周期で回る人工衛星。地上から静止して見える。3 基で地球上の大部分をカバーできる。
衛星放送の仕組み
- アップリンク:地球局→放送衛星 へ電波を送る
- ダウンリンク:放送衛星→受信アンテナ(パラボラ)へ電波を送る
① 1 基で日本全土をカバー可能
② 30〜60° の高い仰角で受信→建物・地形の影響少ない
③ 高品質な映像・音声
GPS(全地球測位システム)
6 つの軌道を各 4 基(計 24 基以上)の GPS 衛星が周回。地球上のどこからでも 4 基以上と通信可能。複数衛星からの電波で距離を計算し,緯度・経度・高度を 数 m〜十数 m の精度で測位。
無線送信機
3-1 電波の型式
電波の型式は「変調・信号・情報」の順に記号で表す。
| 型式 | 意味 | 主な用途 |
|---|---|---|
| A3E | 振幅変調(両側波帯)・アナログ・電話 | AM ラジオ |
| F3E | 周波数変調・アナログ・電話 | FM ラジオ |
| J3E | 振幅変調(抑圧搬送波 SSB)・アナログ・電話 | 船舶・航空通信 |
周波数の許容偏差(例)
| 無線局 | 許容偏差 |
|---|---|
| 中波放送局 | 10 Hz |
| FM 放送局 | 0.002% |
| 地デジ放送局 | 1 Hz |
| アマチュア局 | 0.05% |
例)FM 放送局 80 MHz の許容偏差:±80×10⁶ × 0.002×10⁻² = ±1.6 kHz
3-2 変調方式
AM(振幅変調)
搬送波の振幅を信号波に応じて変化させる。
Vsm:信号波振幅,Vcm:搬送波振幅。m=1 で 100% 変調,m>1 で過変調(ひずみ)。
FM(周波数変調)
搬送波の周波数を信号波の振幅に比例して変化させる。
Δf:最大周波数偏移,fs:信号波の周波数。FM は振幅一定のため雑音に強い。
3-3 AM 送信機の構成
| 構成要素 | 働き |
|---|---|
| 高周波発振回路 | 水晶発振により安定な搬送波を発生 |
| 緩衝増幅回路 | 後段の影響で発振が変動するのを防ぐ |
| 周波数逓倍回路 | ひずみを利用して周波数を整数倍に |
| 電力増幅回路 | アンテナに高周波電力を供給 |
| 低周波増幅回路 | 音声などを信号波レベルまで増幅 |
| 変調回路 | 信号波で搬送波の振幅を変化させる |
3-4 FM 送信機の特有回路
- IDC(瞬時周波数偏移制御)回路:過大信号による周波数偏移を許容値内に抑える
- プレエンファシス回路:高周波成分の信号を強調し,SN 比を改善(受信側はデエンファシスで戻す)
無線受信機
4-1 スーパヘテロダイン受信機
現在の無線受信機の主流。受信周波数をいったん中間周波数(IF)に変換してから検波する方式。
① アンテナ → 同調回路(選局)→ 高周波増幅
② 周波数混合回路で局部発振周波数と合成 → 中間周波数 455 kHz に変換
③ 中間周波増幅回路(IF アンプ)で増幅
④ 検波回路(ダイオード直線検波)で音声信号を取り出す
⑤ 低周波増幅 → スピーカ
fl:局部発振周波数,fr:受信周波数。放送波受信機では fl = fr + fi(局部発振は常に受信周波数より fi だけ高い)。
4-2 影像妨害(イメージ妨害)
スーパヘテロダイン受信機では,受信周波数 fr から見て局部発振周波数 fl の反対側にある周波数 fu からも同じ中間周波数が生成される(影像妨害)。
fu = 2fl − fr = 2×1445 − 990 = 2890 − 990 = 1900 kHz
∴ 1900 kHz の電波が混信する可能性がある。
4-3 中間周波増幅回路と AGC
中間周波増幅回路では単同調増幅器を使う。
受信電波が強いときは利得を下げ,弱いときは上げて出力をほぼ一定に保つ回路を自動利得制御(AGC)回路という。
4-4 無線受信機の性能
① 感度
どの程度弱い電波を受信できるかを表す。SN 比 30 dB のとき,50 mW の出力を得るのに必要な入力電圧で表すことが多い。
S:信号電力 [W],N:雑音電力 [W]
② 選択度
希望波と不要波を分離する能力。高周波・中間周波増幅回路の周波数共振特性で決まる。
③ 忠実度・安定度
- 忠実度(fidelity):低周波信号をひずみ少なく再現できるか
- 安定度(stability):電源変動・温度変化・振動に対する性能の安定さ
雑音電力 N = Vn² / RL = 0.01² / 10 = 0.00001 W = 0.01 mW
SN 比 = 10 log₁₀(25/0.01) = 10 log₁₀(2500) = 10 × 3.398 ≒ 34 dB
4-5 FM 受信機の特有回路
FM 受信機の中間周波数は 10.7 MHz(AM は 455 kHz)。
| 回路名 | 働き |
|---|---|
| 周波数弁別回路 | 周波数の変化を電圧の変化として取り出す(FM 検波) |
| AFC 回路 | 自動周波数制御。局部発振周波数を安定化 |
| ミューティング回路 | 無信号時(FM 信号なし)に雑音を止める |
| 振幅制限回路(リミッタ) | 振幅変調成分(AM 雑音)を除去 |
| デエンファシス回路 | 送信側のプレエンファシスをもとに戻す |
| スケルチ回路 | 無信号時に低周波増幅回路を制御して雑音出力を抑制 |
定期考査 テスト対策
重要用語フラッシュカード
カードをクリックすると定義が表示されます。
重要公式まとめ
総合演習クイズ
学習のまとめ
- 電波は電磁波のうち周波数 3×10⁶ MHz 以下のもの。波長 λ = c/f で求まる。
- 電波の周波数帯によって伝搬特性が異なり,短波(HF)は電離層反射で遠距離通信に使われる。
- 半波長アンテナは全長 λ/2,実効長 λ/π,放射抵抗約 73 Ω。
- アンテナ利得は半波長アンテナを基準に dB で表す。G = 10 log₁₀(P₀/P)。
- 携帯電話の多元接続方式は OFDMA(直交周波数分割多元接続)。
- 静止衛星は赤道上空約 36000 km。3 基で地球上の大部分をカバー。GPS は 4 基以上で測位。
- AM 変調度 m = Vsm/Vcm,FM 変調指数 mf = Δf/fs。
- スーパヘテロダイン受信機の中間周波数:AM 放送 455 kHz,FM 放送 10.7 MHz。
- 影像周波数 fu = 2fl − fr で求まる。同調回路の共振を鋭くして防ぐ。
- SN 比 = 10 log₁₀(S/N) [dB]。感度・選択度・忠実度・安定度が受信機の主な性能指標。